第4話

〈便利屋〉
福岡は事務所のドアをたたき中へ入った。
「すいません巡回の福岡です」と告げると、中から構成員の福島がでてきた。
福島とは派出所への移動後何度も話をしており、警察との窓口になっている。
福島は一度飲酒運転で福岡に見つかっているが、福岡の勤務時間外で見逃されている。福岡もそれをだしにして福島より情報をもらう様になっていた。
「組長が戻っているようですが?」
「早い時間からご苦労様ですね」
「入院中の組長が戻っているようですが」と改めて確認する。
「…ばれちゃいました?」
「先程事務所前で…お客さんですかね、お送りしているのを確認しましたが」と言ったところで、奥から組長の石川が現れた。
「朝から警察が何のようだ」と組長らしい低いただれた声で喋り福岡を牽制した。
福岡は警察手帳を見せ石川へ地域巡回中である事を伝えた。
「いつ退院なされましたか?病院から何も連絡無かったもので」と雨で濡れた巡回表を書きながら尋ねた。
「おまえが病院に確認しろ」とまともに答えるきは無さそうな口調であった。
「いまどなたかお客さんがいらしてたようですが?」
「白髪の男性ともう一人…」少し間を開けて「車の中に女の子も居たものですから」と福岡は確認する。
「そんな事覚えとらん」と言い、こちらを相手にするきは無いようである。
「ご用がないならお引き取り下さい。」と言い残し奥へ入ってしまった。
「すいません、今日はお引き取り下さい。」と福島に言われると福岡は小声で、「後で必ず連絡しろ」と伝え、雨の中へと戻っていった。

 

第3話2

銀河の勤めるホストクラブは駅前ビルの地下にあった。
ホストクラブに着き、銀河は着替えに更衣室へ向かい今日子はフロアーボーイに席へ案内された。
今日子の席には新人のホストがヘルプに着き、馴れない手つきで水割りを作り始めた。
「はじめましてスバルです。」と今日子にあいさつして金色の派手な名刺を渡した。
「スバル君も何か飲んで」と今日子はドリンクを進める。
「ありがとうございます、じゃぁドンペリで…と行きたいところですが、すいません自分お酒飲めないんですよ…なのでウーロン茶いただきます」
「ホストでお酒飲めないんだー」と今日子は笑いながらスバルを見ていた。
スバルはすいませんと頭を下げていたが
、ボーイがウーロン茶を運んできたタイミングでスッと立ち上がり、
今日子をみつめ「今夜もきました! 素敵(すてき)な姫が ホストが届ける乾杯コール それ乾杯、乾杯、乾杯だ〜!」。とフロアのホスト全員の拍手と愛嬌のある声がフロアーに響いた。
「乾杯」と今日子の水割りとスバルのウーロン茶がグラスを合わせた。
その後5分くらいスバルと談笑をして、今日子が水割りを飲みほしグラスをテーブルに置こうとしたとき、従業員の出入り口から白髪の背の高い男性と銀河が一緒に出てきて、そのまま店から出て行ってしまったのであった。
今日子はあわててスバルに確認すると、白髪の男性は店のオーナーとの事であった。

その後すぐに従業員出入り口より他のホストが飛び出し、今日子の席へと駆け寄った。
「すいません、銀河ですが今日は店に戻れないみたいなんですが…」と今日子へ伝えた。
「は?」と今日子は店にきて早々狐に摘ままれてしまった。

第3話

〈今日子〉
ホストクラブ:キャバクラは女が男を接待するのであればホストクラブは男が女を接待する店である。

タクシードライバーの今日子はホストクラブの銀河との待ち合わせ場所へ向かっていた。タクシードライバーとしてではなく、お客としてである。
ホストクラブ通いのきっかけは、先輩のドライバー勿論女性であるが会社の食事会の後に二次会の名目で連れて行かれた事である。
そのままホストクラブにはまってしまったのか、はめられてしまったのかは分からないが、相当なホスト通いになっている。

同伴:お店の売り上げが少ない店舗オープン時にお客を確保するため、ホストとお客が店外にて待ち合わせをして食事などをしたあと、お客と一緒に出勤する事。同伴料として請求される。

ホストの銀河とはお互い車好きがきっかけで趣味や話が合い、そのままのめり込んでしまった。今日も食事とホテルに行ってからの同伴出勤である。

「独立の話はどこまで進んだの?」
「今度物件見に行く事になってるんだ」

銀河は仕事柄銀行よりお金を借りる事が出来ないらしく、今日子がお店の手付金として300万円を貸してしまった。もちろん今日子にそんなお金は無く、借金したお金である。
「この前も同じこと言ってたよ、本当に独立は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ…あっ疑ってるな?」
「そんな事ないよ、銀ちゃんの事は信じてるよ」
「ありがとう、借りてるお金は独立したら必ず返すから、もう少し待ってね」

二人はホテルを出て駅前にある銀河の働くホストクラブへ向かった。

第2話2

環境に変化が起き出したのは交番勤務に移動して一年過ぎた梅雨の時期であった。朝から雨が降りレインコートを着ながら巡回をしている時である。
組事務所前に初めて見る高級な黒塗りの車が1台停車していた。その車の前にはスーツ姿の厳つい男が傘をさして立ち、事務所のほうを見つめている。
福岡巡査官は車のナンバーを控え、本署の上司へ報告をいれ、少し離れたところから組事務所の様子を伺った。
先程は気が付かなかったが停まっている車の中に、高校生くらいであろう女の子の姿が確認できた。福岡はその女の子に見覚えがあった、女の子は車のフロントガラスの先の方に姿を隠す福岡巡査官を見ているようにも思えた。
福岡巡査官が様子を伺い初めて10分くらいたった頃、事務所の中より男が一人出て車の前にいる男を呼び寄せていた。
それと同時に事務所より白髪の背の高い男と入院中であった組長の石川が笑いながら出てきたのであった。
白髪の男はそのまま停車していた車の後ろの席女の子の隣に乗り込み、運転席に厳つい男、助手席に最初に事務所から出てきた男、計四人で車は事務所を離れようとしていた。
車はゆっくりと福岡の前を通り過ぎて行く。通り過ぎる時に車の中の女の子を確認する事ができた、女の子は福岡に向かい「助けて」と口を動かしているように思えた。
石川が事務所に戻ったのを確認すると、福岡も事務所へ向かい歩を進めていた。雨は先程より強くレインコートを叩いていた。

第2話

〈便利屋〉
組事務所の周りは警察に包囲されている。現在22時、事件発生は20時頃の為2時間の膠着状態が続いている。
発砲事件との通報、巡回中の福岡巡査官が駆けつけたが組事務前にて一人の死亡を確認。その後福岡巡査官と連絡が取れなくなり、現在に至る。なお福岡巡査は組事務に捕らえられてる模様である。

「お巡りが死体みて失神かよ、お陰で時間が稼げたぜ」。
「福岡君、あとはよろしく」。組員はそういうと映画大脱走よろしく、隣の建物につながる隠し扉を開け地下通路より事務所を出て行った。

「馬鹿、俺も連れてけ」。

二年前福岡巡査は本署地域課より派出所への移動は命ぜられた。
辞令を受け交番勤務にあたっていた。日々は地域巡回が主な仕事であった。交番の管轄内には組事務所がある為、事務所周辺の巡回を朝夕の二回行う事くらいであった。暴力団排除条令が出来てから報告が多くなり、組事務所伺う事も多くなっていた。
組事務所は組長の自宅兼事務所となっている二階建ての一軒家を改造し二階が組長宅、一階が事務所である。ヤクザにもプライバシーがあり玄関は一階二階分かれている、そのため親分子分の二世帯住宅になっていた。しかし組長は現在入院中、子分の一人であった男と問題があったらしく、その心労の為か自宅で倒れたとの事であった。

第1話2

「奥さん大丈夫かな」
「脅すつもりか」
やくざな男は窓の外を顎で指す。
外ではやくざな仲間たちが奥さんを捕まえ、銃口を向けて中の様子を伺っている。
「妻は関係ないだろ」マスターの口調は厳しくなりやくざな男を睨み付けた。
「申し訳ありません、やくざの仕事なので」その言葉を待っていたかのように店の机をひっくり返しながら笑う。
「さぁどうしますか?」
「…薬の件か」
やくざな男はゆっくりとマスターに近寄り胸元を掴み「よくご存知で」と言い終わる前に殴りつけた。
「分かってるじゃないですか、その薬の情報が出回りましてね。警察や同業から
叩かれまくり」「どう責任取ってもらいましょうかね、秋田さん」
やくざな男がもう一度殴りつけたと同時にドアからやくざな男の仲間が入って来た。
「車に乗せろ」と指示を出し店をでた。
「奥さん申し訳ありませんがこの男借りて行きますよ」

第1話完

第1話

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を顕はす。奢れる者久しからず……

〈逃走男〉
「いらっしゃい」
喫茶店 ドートルのマスターは元やくざ。妻と二人で切り盛りしてる。
オープンして三ヶ月、順調とは言えないが軌道にのりはじめて来たところである。
そこまで忙しくは無いが、昼のドートル唯一ピークが終わり、一息ついたお客さまのいない店内に「パーン」と乾いた音が鳴り響いた。
「銃声」
マスターは焦る妻を外へ出し、顔見知りの銃声の出どころと相対した。
「やっと見つけました、探しましたよ」。いかにもやくざな男はマスターに銃口を向け静かにつぶやいた。
「何の用だ、俺はもう組を抜けた」
「残念ながらあなたは勘違いしてますな」
組長(おやじ)はあなたを抜けさせてはいない。
「綺麗な店ですね」とカウンターのレジスターを蹴飛ばす。「奥さんも綺麗だし」と3台あるコーヒーのサイフォンを倒し。
「やめてくれ、もう関係無いだろう」
「そう、あなたは関係ないかもしれないが、こちらは困ってるんですよ」とマスターへ向け発砲。乾いた音が響きマスターの頬を弾丸がかすめた。

つづく