第5話

〈香子〉
自殺サイトにはいろいろな人の人生相談や、殺したい人のこと、今の自分の現状などの書き込みが行われていた。
香子もそのサイトに自分の事を書き込み、他の同じ様な人達と思いを共有していた。また共有する事で自殺へと至らずに今の自分を保つことが出来ていた。

父親と母親は香子が中学年の時に離婚、
高校は中学生の時の先生が手続きを行ってくれたため、進学する事は出来た。しかし16才の時に父親が傷害事件を起こし捕まりそれ以降学校へは行っていない。

父親は母との離婚後、香子に対し暴力を振るうようになった。何度かその事で高校の担任と警察へ相談をしに行った事もある。
それが原因なのか香子のふさぎ込んだ性格が原因なのかは分からないが、学校では友達も出来なかった。
生きる意味が分からなくなり、自殺サイトへさまよいこんでしまった。

父親が捕まり学校へも行かなくなり、香子は父親の実家に住むようになった。
実際に自殺などほのめかした為、一人にする事が出来なくなり預かられたのが事実である。
おじいさんは資産家であった。その為父親は定職にはつかず、家や外でお酒ばかり飲んでいるイメージしかなかった。
母親は父に脅えていた。子供ながらに香子も感じていた。家を出ていく前に香子に対してずっと謝っていた、何度も何度も頭をさげ泣きながら謝っていた。

「結局私は捨てられた。」

おじいさんの家に来てから一ヶ月くらいたったであろうか、おじいさんが出掛ける為に一緒に来るように言われた、よっぽど一人にしたくないらしい。昨日より続く雨の中、朝早くに出発をした。車一台で香子とおじいさんが後ろの席に座り、運転手と助手席にはおじいさんの秘書が座っていた。車内では特に話はせず30分くらいで目的地へ到着した。
住宅街から少し離れたところにある二階建ての家だった。
「仕事の話しをしてくるから、車の中で待ってておくれ」と言い、秘書とおじいさんは出て行った。運転手も外へ出て傘を差しおじいさんの入った玄関に目を向けていた。
香子は車の中より雨の降り続く外の景色を眺めていた。
おじいさんが出て行き10分くらいたったであろうか、雨の勢いが増した中に一人のお巡りさんの姿を見つけた、香子は「あっ」と声を出しかけた。
そのお巡りさんはこちらの様子を伺っているように思えた。
しばらくしておじいさんが車へ戻り、秘書と運転手も車に乗り、ゆっくりと車は動き始めた。香子の座っている窓越しにお巡りさんが見えた時
「たすけて」と香子は声には出さず口を動かしていた。
あの時のお巡りさんであると確信していた。