第1話

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を顕はす。奢れる者久しからず……

〈逃走男〉
「いらっしゃい」
喫茶店 ドートルのマスターは元やくざ。妻と二人で切り盛りしてる。
オープンして三ヶ月、順調とは言えないが軌道にのりはじめて来たところである。
そこまで忙しくは無いが、昼のドートル唯一ピークが終わり、一息ついたお客さまのいない店内に「パーン」と乾いた音が鳴り響いた。
「銃声」
マスターは焦る妻を外へ出し、顔見知りの銃声の出どころと相対した。
「やっと見つけました、探しましたよ」。いかにもやくざな男はマスターに銃口を向け静かにつぶやいた。
「何の用だ、俺はもう組を抜けた」
「残念ながらあなたは勘違いしてますな」
組長(おやじ)はあなたを抜けさせてはいない。
「綺麗な店ですね」とカウンターのレジスターを蹴飛ばす。「奥さんも綺麗だし」と3台あるコーヒーのサイフォンを倒し。
「やめてくれ、もう関係無いだろう」
「そう、あなたは関係ないかもしれないが、こちらは困ってるんですよ」とマスターへ向け発砲。乾いた音が響きマスターの頬を弾丸がかすめた。

つづく