第8話

〈逃走男〉
取り引き当日に石川組へ中止の連絡を入れてきたのは、取り引き先である徳山興業である。しかし実際には取り引きは行われており、石川組を含むいくつかの組は取り引きに参加出来てはいなかった。
それをいいことに徳山興業は、揺すりをかけてきているのが実状である。

しかし警察へのたれ込みがあり、徳山興業には調べが入ってしまった。徳山興業の存続のため現在犯人探し名目で組の乗っ取りを企んでいるのが山口かと思われる。

第7話

〈今日子〉
銀河が白髪の男性に連れて行かれてから三日たった。今日子は毎日毎時間銀河の携帯に電話をかけていた。
「おかけの電話番号は電波の届かないところにおられるか電源が入っていないためかかりません」と機械音が繰り返されていた。
お店に連絡しているが来ていないと毎日繰り返えされた。
白髪の男性と連絡を取ろうとお店に連絡を入れたのだが、個人情報の為に教えてはもらえなかった。
また警察に行ったところで相手にしてもらえるような話ではなく、今日子は行き詰まってしまった。
銀河がいないと生きていけない今日子と銀行への借金とホストクラブで使ったガード払いが残るだけとなった。
途方にくれかけていた今日子にふと考えが浮かんだ、急いで鞄をあさると、最後にホストクラブへ行った日にもらった金色の名刺が出てきた。
白髪の男性の連絡先を教えてもらおう。

スバルが電話に出たのは夜の10時を回っていた。「スバル君覚えてる」と今日子はあの日の事を説明した。
スバルもお酒が飲めないだけあって、覚えていたので助かった。
「白髪の男性の連絡先と名前を知りたいんだけどなんとかならないかな?」
「お店の人は個人情報だから教えてくれなくて…」と今日子はスバルにお願いをした。
スバルは「教えるのはいいんですが…」とためらう素振りを見せる。
「お願い」と今日子が言うと「10万でどうですか?」とスバルは返した。
今日子は黙ってしまった。今の今日子に現金10万円は本当に無理であった。
携帯電話を耳にあてたまま、悔しさと悲しみで泣いている今日子がいた。
「10万円と言いたいところですが、今回はサービスしておきます。自分も銀河さんが気になりますので」とスバルが今日子へつたえる。
「ありがとう」と言うのが精一杯であった。
「お店についたら電話します」。
「またお店に来てくださいね」と今日子へ伝えると電話は切れた。
部屋で今日子は泣く事しか出来なかった。

第6話2

石川と秋田を二人にして他の組員は部屋を出た。

石川が秋田の居場所を知ったのは、千葉という飲食店などを手広く経営してるオーナーからの連絡であった。千葉は石川組のいわゆる縄張り内にて風俗店も経営しており、何度か組の訪れ挨拶料名目ではあるがみかじめ金を払っていた。

「秋田よ、どう落とし前つける?」
「シャブのあるなしもあるが、それ以上に情報が漏れた事が問題なんじゃ」
「警察に情報が流れた事で元締めに調べがはいり、当然次はうちにくるだろう」
「お前がシャブに反対してたのは知ってる、がしかしやくざも身が狭くなってきてな、手広くやらんと生きていけんのじゃ」
「まぁ明日まで時間はあるよく考えろ」

秋田が組を抜ける前日である。
組長の指示で取引現場に向かう途中、取引先から中止の連絡が組長から入った。秋田は現状を確認するため、現場には向かっていた。
しかし取り引き中止は誤報だった。取り引き行われているのにすっぽかしたという口実を作りそれをネタに揺すり始めた結果であろう。その状況に耐えられない他の組が警察にでも情報を流
したのだろうか。
その結果、石川であり秋田がばばを引いてしまったのだ。
石川は知っているはずだが、組長として騙されたとは言えるはずがない…

「組長」と秋田はつぶやく「組長は全て知ってますよね」と続ける。
「組長には責任かからないようにします。なので俺に今の情報を教えて下さい。」

第6話

〈逃走男〉
秋田を乗せた車は一度も停止する事なく二時間くらい高速を走らせていた。
行き先はわかっている、近づくにつれて心臓の鼓動が早くなっていた。
妻は大丈夫だろうか?状況が全く分からないだけに、手の出しようがなかった。
車は高速道路をおり一般道を走り始めた。
助手席に座った、いかにもやくざな男は秋田が組を出たあと、薬の情報収集のため元締めの組から回された山口というやくざであった。
石川組に着き秋田は車を降ろされた。
事務所にはいると組長をはじめに秋田の顔見知りの面々が揃っていた。
「秋田、久しぶりだな」。石川が睨み付けると同時に、一発二発と殴られ拳銃を頭に突き付けられた。「手間取らせやがって」「シャブは何処に隠した」と秋田へ迫る。「もう一度聞く」「シャブは何処に隠した」
秋田が「シャブなんて無く、組長が騙されていただけですよ」と言うと、石川は秋田を拳銃で殴り付けた。

「悪いが秋田と二人にしてくれ」と石川が言う。
山口は「一度組に帰らせていただきます、明日また来ますので、組長お願いしますよ」
「すまんな、手ぶらで帰らせて」と頭を下げた。

第5話

〈香子〉
自殺サイトにはいろいろな人の人生相談や、殺したい人のこと、今の自分の現状などの書き込みが行われていた。
香子もそのサイトに自分の事を書き込み、他の同じ様な人達と思いを共有していた。また共有する事で自殺へと至らずに今の自分を保つことが出来ていた。

父親と母親は香子が中学年の時に離婚、
高校は中学生の時の先生が手続きを行ってくれたため、進学する事は出来た。しかし16才の時に父親が傷害事件を起こし捕まりそれ以降学校へは行っていない。

父親は母との離婚後、香子に対し暴力を振るうようになった。何度かその事で高校の担任と警察へ相談をしに行った事もある。
それが原因なのか香子のふさぎ込んだ性格が原因なのかは分からないが、学校では友達も出来なかった。
生きる意味が分からなくなり、自殺サイトへさまよいこんでしまった。

父親が捕まり学校へも行かなくなり、香子は父親の実家に住むようになった。
実際に自殺などほのめかした為、一人にする事が出来なくなり預かられたのが事実である。
おじいさんは資産家であった。その為父親は定職にはつかず、家や外でお酒ばかり飲んでいるイメージしかなかった。
母親は父に脅えていた。子供ながらに香子も感じていた。家を出ていく前に香子に対してずっと謝っていた、何度も何度も頭をさげ泣きながら謝っていた。

「結局私は捨てられた。」

おじいさんの家に来てから一ヶ月くらいたったであろうか、おじいさんが出掛ける為に一緒に来るように言われた、よっぽど一人にしたくないらしい。昨日より続く雨の中、朝早くに出発をした。車一台で香子とおじいさんが後ろの席に座り、運転手と助手席にはおじいさんの秘書が座っていた。車内では特に話はせず30分くらいで目的地へ到着した。
住宅街から少し離れたところにある二階建ての家だった。
「仕事の話しをしてくるから、車の中で待ってておくれ」と言い、秘書とおじいさんは出て行った。運転手も外へ出て傘を差しおじいさんの入った玄関に目を向けていた。
香子は車の中より雨の降り続く外の景色を眺めていた。
おじいさんが出て行き10分くらいたったであろうか、雨の勢いが増した中に一人のお巡りさんの姿を見つけた、香子は「あっ」と声を出しかけた。
そのお巡りさんはこちらの様子を伺っているように思えた。
しばらくしておじいさんが車へ戻り、秘書と運転手も車に乗り、ゆっくりと車は動き始めた。香子の座っている窓越しにお巡りさんが見えた時
「たすけて」と香子は声には出さず口を動かしていた。
あの時のお巡りさんであると確信していた。

第4話2

福岡が派出所へ戻り、事務処理をしていると本署より連絡が入った。
先程の車のナンバーより、車の持ち主が確認出来た、千葉という男で飲み屋など数店舗のオーナーをしている事が判明した。息子が一人いて一度傷害事件を起こし捕まっている事も確認がとれた。
また石川は昨夜病院を退院したとの事であった。

雨が上がった昼過ぎに、福岡の携帯電話へ福島より連絡が入った。
石川の退院と来客が千葉という事の情報は一致した。
それと千葉が手掛ける予定である飲み屋のオーナーの話を石川に持ち掛けたとの事であった。
また息子は子供を虐待していたらしく、今その子供、正確には孫をあずかっているという話もしていたらしい。

福岡は思い出していた。先程の車の中にいた女の子は、千葉香子。派出所への勤務前に地域課で虐待の相談を受けていた女の子であった。